New Page! 「真、行、草」 「懐石と茶事について」「床の間の話」 「花びら餅」
前回花びら餅について書いた際に、これを盛る器縁高の事についてちょっと触れました。 縁高というのは菓子を盛る器の中では真の位に位置するものです。いわゆる伝物といわれる許状を持った人のする点前の際の菓子はすべて縁高に盛られます。 有名陶工の作品で家元の箱書き(極め)の付いたようなものでも陶器、磁器などの器は草の位置にあります。 普通に行われる茶会などでは、その会の雰囲気にあわせて菓子器も選ばれます。盛られる菓子にあわせ、またその日の趣向により席主が考えます。 ここで使われている真、行、草とはいったい、何なのでしょう? そもそもこの言葉は書からきているようです。フォントのなかにも隷書体、楷書体、行書体、、草書体などとありますが 同じ字でも書体によって受ける感じがぐっと異なることは経験されていると思います。 楷書は格式高く整ったものでこれを真とすると、草書は崩した風雅を楽しむもの、そして行書はその中間をいいます。 これをもとに華道、茶道、庭園、俳諧、絵画の世界で表現の方法としてもこの真、行、草がいかされています。 たとえば華道の世界でいうと池坊派とか古流等で受け継がれている立花というもの。これは真の形の花のいけ方です。 そして、各流派の展覧会などに出展されている自由花を行とすれば、茶席などのいけられているものを草というのではないかと私は解釈しています。 さて、茶道の世界に話をもどして、こちらも点前、道具、等色々な場面に真、行、草が出現します。 歴史的にいうと、足利時代などは台子(だいす)という棚を使い、道具類も唐から伝来した「唐物」という茶入れや香炉、茶碗などを使った真の点前が多かったようです。 お茶は天目台という塗り物の台の上にのせられて供されていました。 試しに私の持っている稽古用の天目茶碗をお見せします。 現在国宝として残っている窯変天目茶碗は「静嘉堂文庫」に「稲葉天目」をはじめとして各種あります。 大名たちは競って唐物の道具を手に入れ、それをまた戦いの取引にも 使っていたとされています。 その後千利休がこういった様式美にとらわれたものから脱却したわび茶をはじめ、お茶の道具は様変わりしていきます。 唐渡りの磁器の茶碗から国焼きといわれる土ものになり、楽や大樋、萩などという柔らかい草の茶碗が主流になってゆきました。 それにしたがって水差しとか建水といった道具なども変わり、茶杓も象牙のものから竹に変わってゆくのです。 現在では真の道具を使う点前は特殊なものになり、ほとんどが草の道具で趣向を楽しむものになりました。 ちなみにおじぎにも真、行、草があるのですよ。 座ってするおじぎの真は手のひらを畳にしっかりつけて深く頭をさげる。行は指の第二関節まで畳につけ、頭はややあげる。そして草は指の第一関節を畳につけて軽く頭を下げる…といった風に場面場面にあわせて真行草の使い分けをしながら点前を進めてゆきます。立ってするおじぎにも勿論真行草があり、サービス業ではこれが使い分けられています。 ホテル、航空業等の新人研修はこのお辞儀の仕方から始まるようです。 日本人のおもてなしの心がこのお辞儀に表されていると思います。 |