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New Page !      「真、行、草」 「懐石と茶事について「床の間の話 「花びら餅」


 最近和食が世界で注目をあびるようになり、ミシュランの星がいくつついたかなどどという事が話題になっています。

和食の一番の正統派にあたるのが懐石料理といわれるものです。会席などと書く場合もありますが本来は禅僧が空腹をこらえるために石を温めて懐中に入れた「温石(おんじゃく)」からきており、ちょっとお腹を満たすための軽い食事を表します。
実は濃茶というものは濃くてカフェインもたっぷりなので空腹のままで飲むととても胃に響くので、その前にお食事をとっていただくというのが趣旨です。
利休さんが茶事というものを始めたころは一汁三菜くらいの簡素なもので最後に出されるお菓子も勝栗とか麦こがし、干し柿などの簡単なものだったようです。
それが食材も豊富な時代になり、今は贅沢の極みというか、亭主側のもてなしの心がたっぷりはいった日本料理の頂点のように受け取られ、よく婦人雑誌のページに豪かな料理、豪華な器が並ぶようになりました。
本来お客を招待した亭主が、自分で料理をしてもてなすものなのですが、今では水屋まで料理人が作ったものを運んでくるという事が多くなりました。

ところで、「茶事」という言葉についてですが、これはお茶を飲んでいただくためにできた一つのコースのことなのです。

招待されたお客が茶室を訪れ、亭主の案内に従って席入りをして、炉の季節であれば、まず炭点前をして火を整え釜をかけ、その釜のお湯が沸くまでの間に食事を楽しみ、お酒も飲んで亭主と歓談、気持ちよくお腹が温まり部屋も温まったところでデザートのお菓子を頂き、そこで亭主側が「お席を改めたく思いますので、どうぞお腰掛の方へ」と案内をします。客は一旦茶室の外へ出て外気を吸い、用事なども済ませて庭の一隅にある外待合といわれる場所で待ちます。
ややあってどらの音が聴こえてくるので、これを腰をおとして静かに聴き「あ、茶室の支度ができたのだな」と納得し、蹲で身を清めて再び茶室に入ります。この時に身をかがめて入るのを「躙り口」といいます。
身分のある武士たちも大事な刀を「刀かけ」という簡単な桟のような物に預けて丸腰で入るためにあのような小さな入口になったといわれています。武士の密談も丸腰ならお互いに危険が無いようにという巧妙な仕掛けなのです。(昔のセキュリティというものはのんびりしていたのですね。)この写真は「如庵」という織田有楽斉の隠居所として建てられたもの。現在は名鉄犬山ホテルが所蔵しています。広く見えますが二畳半の小間です。

席が改まり床の間には壁から軸が外され、花のみが活けられています。
そこで、亭主が厳かに現れて濃茶の点前が始まります。柄杓を竹の蓋置の上に「かっ!」と引くその音が聞こえるまでは主客ともに息を詰めるような緊張が走るのがこの濃茶のスタートです。柄杓が引かれて初めて正客は亭主と挨拶を交わすというのが決まりです。
前席で酒を酌み交わしていながら、濃茶席になったらある時期までは無言というのもこの茶事という長い催しに強弱をつける演出なのだなと自分も参列しながら考えたものです。

最近では大寄せの茶会が多くなったため、濃茶が茶事のためであるという事が忘れられていますが、本来は亭主側が招待した数人の客のために心を籠めて濃茶を練ってその日の最大のもてなしにするというものです。
だから、客も心して亭主側の心入れを感じ取らなければならないというのが茶事の本筋なのです。

この後炭をなおしたり、薄茶を点てたりとすべてが終わるまでに4〜5時間かかるのが「正午の茶事」で一日がかりの大仕事です。

その前に亭主はお客に対して招待をするという書状を書き、客も返信をするという前置きのもとにことが進められます。

席中であいさつするセリフも決まりごとがあったりして、結局茶事というのはこれまでしてきた稽古の総仕上げといったものです。

一生の間に正式のお茶事におよばれするという事はそうあるものではありませんし、ましてや自分が亭主になってすべてを取り仕切ることは稀ですのでこれはお茶を習っている人にとっては一大事といってもいいものでしょう。
何度も点前の練習をし、料理を運ぶ手順、料理を進める場合のセリフなどもしっかりと頭に入れて、水屋を手伝ってくれる人たちに「どうぞ、よろしく助けてください。」と心をこめて挨拶をして、丹田に気合をいれてスタートする緊張の一瞬。もう、しばらくそんなことからも離れてしまいましたが、今でも思い出すと心が引き締まります。

懐石料理の主なものを載せてみました。このほかに強い肴として珍味をもう一品くらい出され、口の中を洗うという意味で小吸い物椀が出され、さらに最後に香の物(漬物)と湯桶に入ったお湯(これはお釜のおこげを入れて香ばしくしたものが入ることが多いです。)が出され、このお湯で最初に出された汁椀と飯椀を洗い漬物できれいにぬぐうというのは禅僧の食事作法を取り入れたもので、すべての器を懐紙等できれいにしてから清めた箸を一斉に折敷の中に落とします。亭主はこの音を聴いて膳を下げに来るのです。
こんな風に食事の作法も学びつつお酒もほどほどに頂いて、美味しい料理を味わうというのが一般的な懐石です。
 最初に運ばれてくる飯椀、汁椀、向付け  煮物椀  焼き物  強い肴  八寸と燗鍋
         


2013/2/15  記

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